3.省エネ・省CO2・リサイクル等の取組み
鉄道事業の電力消費
鉄道事業においては、使用するエネルギーの大部分を電力が占めており、列車を動かすために使用する電力を「運転用電力」、駅施設等で使用する電力を「付帯用電力」といい、これらの電力の削減に取組むことが、省エネルギーにつながります。 2022年度の鉄道用電力は約680百万kWh(前年度比0.04%減)で、うち運転用電力量は前年度比0.1%増、付帯用電力量は前年度比0.3%減でした。 車両走行キロは前年度比0.3%減でした。 また、電力消費が少ない省エネ車両や、LED照明などの各種設備の導入を進めています。
鉄道用電力消費の推移
電力消費の推移 | 2010年度 | 2022年度 |
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動力原単位 | 2.17 | 2.11 |
- 車キロとは、車両走行キロの略で、回送を含む年間の車両の延べ走行距離。 (2022年度:282,404千km) 運転用電力(2022年度:595,762千kWh)を走行距離で割ることで、車両走行1kmあたりの使用電力量がわかります。
運転用電力消費と省エネ車両比率の推移
消費電力の削減に貢献する省エネルギー車両を順次導入し、2023年3月末現在、全車両(1,877両)の64.3%にあたる1,207両が省エネルギー車両です。 そのうち特に省エネ効果の高いVVVF車両は974両で、従来の車両と比べて消費電力を35%削減しています。 また、アルミ車両、ボルスタレス台車により車両の軽量化も図っています。
- 省エネルギー車両とは、一般にVVVFインバータ制御装置や回生ブレーキを装備し、ステンレスやアルミを用いて車体を軽量化した車両をいいます。
LED照明導入
長寿命で省エネ効果が高いLED照明を、駅や車両で使用しています。 2023年3月末現在、駅照明は、286駅中285駅で54,499台のLED照明を使用しており、これは駅照明台数全体の96.7%にあたります。 同様に車両照明は、車両総数の39.8%にあたる747両でLED照明を使用しており、駅照明とあわせた省エネ効果は、年間1,705万kWhになります。 また、観光特急「しまかぜ」「あをによし」、名阪特急「ひのとり」の車内照明は、すべてLED照明を使用しています。
車両運行におけるCO2排出
日本政府は2050年のカーボンニュートラル実現を目指すことを宣言し、2021年4月に「2030年に2013年度比で温室効果ガス46%削減を目指す」という新たな目標を発表しました。
鉄道事業におけるエネルギー使用量のうち、電力は98%であり、その内訳は車両運行で88%、駅施設で12%を使用しています。
日本のカーボンニュートラル実現に貢献するためにCO2排出量を削減するには、車両運行と駅施設におけるCO2排出量を減らすことが重要ですが、そのためには省エネ車両や省エネ設備の導入のほか、新たな技術開発が必要です。
また、人口減少やライフスタイルの変化などの社会環境の変化や、電力会社によるCO2排出係数の変化の影響を受けるため、社会全体で取り組むことも必要となります。
車両運行におけるCO2排出量
2022年度 主な省エネルギー対策と効果
2022年度 削減量 | 費用削減 | 備考 | |
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省エネ車両 | 16,047 万kWh | 3,175,768 千円 | 1,877両のうち省エネ車両1,222両 |
き電線上下一括化 | 953 万kWh | 188,599 千円 | 奈良線・京都線・橿原線・大阪線・名古屋線・南大阪線・山田線・鳥羽線・志摩線 |
ヒートパイプ式等 整流器更新 | 732 万kWh | 144,863 千円 | 更新済72台 |
照明のLED化 | 1,705 万kWh | 337,459 千円 | 駅・ホーム 累計69,534台 |
照明のインバータ化 | 189 万kWh | 37,304 千円 | 駅・事務所等 累計14,849台 |
地下空調インバータ化 | 324 万kWh | 64,120 千円 | 大阪難波駅等6駅 |
力率改善用コンデンサ | 252 万kWh | 49,871 千円 | 29変電所および駅 |
回生電力吸収装置 | 262 万kWh | 51,850 千円 | けいはんな線・大阪線 計3ヶ所 |
エスカレーターの自動運転 | 39 万kWh | 7,718 千円 | 17駅39基 |
エスカレーターの速度自動制御 | 12 万kWh | 2,276 千円 | 5駅123基(大阪難波、近鉄日本橋、大阪上本町、布施、桑名) |
合計 | 20,515 万kWh | 4,059,827 千円 |
- 削減量および費用削減額は、単年度での各項目導入以前との比較です。
- 削減予想効果算出に、以下の数値で計算しています。鉄道用電力は1kWh=19.79円
- 省エネ車両の効果は、従来の車両(カム車)との比較です。
き電線上下一括化
上り線と下り線のき電線を電気的に接続することで、き電抵抗が減少し、き電線で消費されている電力損失の低減を図ります。 また、回生ブレーキにより発生した回生電流が接続箇所を流れるため、上下の列車間でお互いに効率よく利用することで電力量削減を図ります。 2023年3月現在で、奈良線、大阪線、京都線、橿原線、南大阪線、名古屋線、山田線、鳥羽線、志摩線等で実施しており、年間953万kWhの電力を節約しています。
地下駅の空調設備の効率化
地下駅の空調設備において、温度負荷に応じた細かい運転を行うインバータ化を図り、効率的な運転を行うことで電力消費を削減しています。 大阪難波駅、近鉄日本橋駅、大阪上本町駅、近鉄奈良駅、大阪阿部野橋駅、近鉄名古屋駅でインバータ化を実施し、年間約324万kWhの電力を節約しています。
力率改善用進相コンデンサの設置
通常は電力を使用する際には、電力ロスが発生しますが、力率改善用進相コンデンサを設置することでロスを減らし、電力効率を改善しています。 尼ヶ辻変電所、中川変電所などの29ヶ所の変電所と、駅の電気室に設置し、年間252万kWhの電力を節約しています。
回生車と回生電力吸収装置
回生車とは、回生ブレーキ装備の車両で、速度を一定に抑える時や、減速する時に、モーターを発電機として使用し、発電された電気を他の車両で利用、もしくは回生電力吸収装置で吸収し、駅構内等の照明設備等に再利用できます。 新生駒変電所、白庭変電所と長谷変電所に回生電力吸収装置を設置し、年間約208万kWhの電力を回収して再利用しています。
パーク&ライド
駅周辺で駐車場および駐輪場をグループ会社が運営するほか、時間貸し駐車場業者に土地を賃貸し、駐車場運営が行われており、駅までは車で来て、駅からは電車を利用する「パーク&ライド」をすすめています。 車よりも環境にやさしい電車を利用することで省CO2になります。
乗車券・特急券のリサイクル
紙製の乗車券・特急券は、リサイクルして、段ボールに生まれ変わります。
鉄道工事等で排出する廃棄物の減量・管理
工事や作業で発生する不要になった資材は、社内においてリサイクルを図り、排出する廃棄物の減量に努めています。 やむを得ず処理する廃棄物については、近畿日本鉄道㈱は産業廃棄物の排出事業者として、収集・運搬・処分業者に産業廃棄物管理票(マニフェスト)を発行し、適時処理現場を確認するなど、それぞれ適正な処理を各業者に促しています。
制服への再生素材の使用
駅係員用のシングル上着と、駅係員および乗務員用のズボンに、再生ポリエステルを50%使用しています。
古いレール部品等の活用
中古のレール、まくらぎ等のうち再利用が可能な材料については積極的に再利用するほか、廃車車両の使用可能機器をできる限り再利用し、新造車両や増備車両に使用しています。
車両における配慮
シリーズ21では、シートのクッションに再生可能なポリエステル繊維を採用しています。 車体の材料には、リサイクルの容易なアルミ材を使用しています。
車庫における水の有効利用
車庫(検車区)において、車体洗浄機により車両を洗浄しています。 車体洗浄機から排出される洗浄排水は排水処理装置により浄化して河川や下水道に放流しています。 またこの水の一部を車体洗浄機やトイレ付車両の汚物タンク洗浄水として再利用しています。
生物多様性との関わり
事業活動の様々な段階において、生物多様性への影響があることを認識し、負の影響をできるだけ抑制するよう、生物多様性の保全につとめています。
シカ踏切
2016年5月に、東青山駅付近に「シカ踏切」を導入しました。
シカは、線路をはさんで存在する生息域を行き来しますが、線路周辺に設置された「獣害防止ネット」がガードレールの役割をしてシカが入り込むのを防ぎつつ、ネットの張られていない場所をシカが通るように誘導し、その場所に設置した装置から、列車運行時間帯はシカが嫌がる「超音波」を出して、鹿を横断させず、列車が通らない時間帯は自由に横断してもらう仕組みで、超音波が踏切の代わりになります。
導入後、このエリアでの電車とシカの接触事故は大幅に減少しました。
また、シカ踏切が2017年度グッドデザイン賞を受賞しました。