平成19年~22年

「第2の創業期」の到来

 平成19(2007)年にアメリカでサブプライムローン問題が表面化し、その後リーマンショックといわれる世界的な金融危機が発生したことで、景気は世界的に減速へと向かった。 日本経済も大きな影響を受け、消費手控えの状態となった。

 当社では、平成19年6月、山口昌紀社長が会長に、小林哲也専務が社長にそれぞれ就任した。 近鉄グループ経営改善計画および新「近鉄グループ経営改善計画」の成果により、当社は健全な企業体質を取り戻しつつあった。 そこで、17年12月策定の「近鉄グループ経営計画(平成18年度~平成21年度)」(以下、「経営計画」という。)を着実に実行することによって磐石な経営基盤を築き、創業100周年(22年)以降のさらなる飛躍に向けて成長を加速させることが小林社長の経営課題となった。 小林社長は、経営計画に掲げた主要プロジェクトを中心に各事業を進捗させていった。

  • 近鉄・阪神相互直通運転の各車両
    近鉄・阪神相互直通運転の各車両
  •  鉄軌道事業では、平成21年3月20日に、三宮・近鉄奈良間で阪神電気鉄道との相互直通運転を開始して実質的な沿線拡大を実現するとともに、近鉄難波駅および上本町駅をそれぞれ「大阪難波駅」および「大阪上本町駅」と名称変更した。 これに伴い、大阪難波駅の駅施設を整備してターミナル機能の強化を図ったほか、同駅構内にショッピングモール「Time's Place」を開業した。 一方で収支が悪化していた養老線および伊賀線については、19年10月に事業形態を変更した。 新たに設立した養老鉄道および伊賀鉄道が第二種鉄道事業者、当社が第三種鉄道事業者となった。 さらに18年11月以降、一部特急で車内販売を復活した。 そのほか、21年4月に新型特急車「Ace(22600系)」の運転を開始し、22年4月には、旅客サービス充実を目的に、「ビスタカー(30000系)」にグループ専用席を導入した。

  • Ace(22600系)
    Ace(22600系)
  •  ターミナルの整備は、阿部野橋、上本町、京都、四日市などで実施された。 阿部野橋ターミナルビル整備計画は、既存のターミナルビル旧館部分を建て替え、地下5階、地上60階建て、高さ約300mの日本一の超高層ビルを建設する計画で、平成22年1月に建設工事に着手した。 開業は26年春の予定である。

 上本町ターミナル整備としては、平成22年8月に近鉄劇場跡地に大阪新歌舞伎座などが入居する複合施設「上本町YUFURA」を開業した。 京都駅ターミナル整備では、改札の統合工事を完了するとともに、20年10月に高架下商業施設「近鉄名店街」を「近鉄名店街みやこみち」としてリニューアルオープンした。 これに加え、4号線新設工事と、その上部を高度利用して宿泊特化型ホテルの建設工事を進め、それぞれ24年春の完成および23年秋の開業をめざしている。 四日市ターミナル整備としては、22年3月、ホテル「三交イン四日市駅前」と商業店舗とで構成する「四日市駅前複合ビル」を開業した。 また、22年は奈良で平城宮跡をメイン会場とする「平城遷都1300年祭」が開催されることから、大和西大寺駅では、平城宮跡の玄関口にふさわしい駅とするため、21年9月、同駅構内にショッピングモール「Time's Place Saidaiji」を開業した。

上本町YUFURA
上本町YUFURA
Time's Place Saidaiji
Time's Place Saidaiji
  • 志摩観光ホテルベイスイート((現)志摩観光ホテル ザ ベイスイート)
    志摩観光ホテルベイスイート
    ((現)志摩観光ホテル ザ ベイスイート)
  •  ホテル事業では、グループ外から施設などを取得して、志摩市に「ホテル近鉄 アクアヴィラ伊勢志摩」((現)都リゾート 奥志摩 アクアフォレスト)を、尼崎市に「ホテルニューアルカイック」((現)都ホテル 尼崎)をそれぞれ開業したほか、新たに「志摩観光ホテル ベイスイート」((現)志摩観光ホテル ザ ベイスイート)を建設して平成20年10月に開業した。

 平成22年4月には、あやめ池遊園地跡地にスーパーマーケット「ハーベスあやめ池店」が開業し、また近畿大学附属幼稚園・小学校が開校することで、一部街開きを実施した。 このほか、生活に関わる利便性の高いサービスの提供を目的に、19年7月、生活応援事業「近鉄“楽・元気”生活」を開始した。

 また、厳しい経営環境のなかで、近鉄グループ各社が互いに助け合い一丸となって業績を下支えしていくため、平成20年12月に「グループ利用促進運動」を開始した。 「グループ企業間取引の拡大」と「グループ社員、家族への販売拡大」の二つの運動を基本としたもので、「BY近鉄運動」と名づけられた。

 業績については、平成15年度に2.5円の復配を実現したあと16年度以降も3円配当にとどまっていたが、事業基盤の整備、強化と業績確保のための諸施策に全力で取り組んできた結果、20年度および21年度は5円配当を実現した。 一方、連結有利子負債は増加傾向で、21年度には1兆3,000億円を超えることとなった。

 そこで当社は、平成22年5月、5カ年の「近鉄グループ経営計画(平成22年度~平成26年度)」を策定した。 これは、阿部野橋ターミナルビルが完成する26年春までに各種プロジェクトを推進し、各事業にわたって構造改革を進めるとともに新たな事業の創出を図ることをねらいとしている。 そして、現行の配当水準を安定的に維持するために必要な利益を確保し、有利子負債の削減などもめざすこととなった。

 平成22年9月16日、当社は創業100周年を迎えた。 同日、シェラトン都ホテル大阪で記念式典を挙行した。 小林社長は、この式典で当社100年の発展の足跡を振り返り、 「当社には、これまで数々の逆境を乗り越え、それをチャンスにさえ変えてきた誇るべき歴史があります。先輩諸氏は、不屈の精神をもって、前人未到の山さえ越えてきたのです。私たちもまた、先人から受け継いだ挑戦の気概をもって、この大いなる試みを成し遂げることを、本日の記念すべき日に誓いたいのであります。」 と述べた。

鉄軌道線の推移(12)
出典:近畿日本鉄道100年のあゆみ